ある豪雪地帯からの脱出


注)これはリアル脱出ゲームのことではありません。
注)エンターテインメントではなく、リアルに豪雪により孤島と化した鳥取県から脱出したガチ話です。

リアル脱出ゲームはいわゆる「体験型エンターテインメント」のことです。

ファザーリング・ジャパン関西のメンバー同士でも時々参加しますが、マジで面白くてオススメです。

 

高速道路が封鎖された!

その日は、朝起きた時点ですでに数十センチの積雪があるほどの大雪。

そんななか、夕方まで仕事をこなし、車での帰路に着こうと高速道路に乗った瞬間、「米子道は雪のため通行止め」との表示。

時計は17時00分ちょうど。

すでに鳥取県で2泊していて、翌日の夜にも講演が予定されているので、是が非でも今日帰りたい。

タイヤはスタッドレス、ガソリンは高速道路に乗る直前に入れて満タン状態、水と簡単なおつまみが車に積まれている。

さぁ、あなたならどうする?

【この時点で考えられた選択肢は3つ】

①封鎖解除を信じて米子道に突っ込んで脱出
②この日の脱出を諦めて皆生温泉にもう一泊する
③封鎖されていない100km先の鳥取道に迂回して脱出

僕は、ほぼ考えるまでもなく③を選択。

夜の吹雪のなか、アイスバーンとなった国道9号線をひたすら走り続け、なんとか鳥取市内に入ることに成功します。
鳥取道にさえ乗れればもう帰れたも同然。

ホッとして時計を見ると、20時20分。

雪道運転による緊張のためか、疲れはまったく感じないもののこの時点で出発からすでに3時間以上が経過。
何事もなければ大阪に戻れている時間です。

 

しかしながら、ここで再び緊急事態!

スマホで道路状況を確認すると、画面には「鳥取道は雪のため通行止め」の表示。

目を疑うとはこのこと。
「あり得へんやろ!なんやこれは!」

ここまできて帰阪を諦めるのか・・・。
ウダウダと考えながら、ダメ元で鳥取道の入り口まで車を走らせると、電光掲示板には「智頭までの迂回路53号線」という表示。

 

ここで一度情報を整理します。

時間は20時20分。
鳥取道も雪のため一部通行止め。
智頭まで行けば再び鳥取道に乗ることができるらしい。
その先は通行止めの表示はない。

一刻も早く帰りたい。
あなたならどうしますか?

【ここで考えられる選択肢は2つ】

①諦めて鳥取市内で宿を探す
②智頭まで下道、智頭から高速に乗り脱出

簡単に諦める篠田ではありません。
当然ここでの選択肢は②。

智頭までのおよそ15kmを40分かけて走り続け、無事に智頭の入り口にたどり着きました。
しかしながら、またしても予想だにしていない事態が・・・。

通行止めのため鳥取道進入禁止・・・

 

鳥取県完全封鎖!

とんでもない事態です。
現在時間は21時00分。

鳥取道はトレーラーが立ち往生し、動くに動けないことになっている。
試行錯誤しているが、現時点で通行止めの解除のめどは立っていない。
下道も峠付近で一部が通行止めにはなっている。

そう、鳥取は陸の孤島と化してしまいました。

あなたなら、この状況でどうしますか?

【ここで取れる選択肢は3つ】

①恐怖を押し込み下道で峠越え
②封鎖解除を信じて待機
③諦めて引き返し鳥取市内に宿泊

これは正直、悩ましい状況。
はじめは①を選択しようとしましたが、雪の降る電柱一本なく、誰一人通っていない道路を走るのはさすがに恐ろしい。

「しかし早く帰りたい!」

自分の安全を確保しつつ帰れる望みをつなぎ、②を選択し、車の中での待機が始まりました。

ここに思わぬ情報が舞い込んできます。

 

妻からです。

大丈夫?

ニュース番組でも鳥取道のことをやってるで。

トレーラーの撤去出来たから、直に封鎖も解除されるらしいよ。

がんばって!

 

するとほどなくして、高速道路からたくさんの車が降りてきました。

どうやら何台も立ち往生していたようです。

 

ここでタイムアップ!

高速道路手前で待つこと4時間半。

そろそろいけるんじゃないかと思っていたそのとき・・・車の中にいる僕に声をかけてきたのはおまわりさんだった。

「もう鳥取道は開通しません。」
「このまま立ち往生が増えると大変なことになるので、今日は諦めて鳥取市内でゆっくりしてください。」

「ゆっくり?どうやって?」と思いながらも、これ以上、状況がよくなる見込みはどうやらなさそうなので諦めて鳥取市内に戻ることになりました。
粘ったかいもなく、残念ながらタイムアップです。

 

続・高速道路が封鎖された!

無事にホテルを取ることが出来たおかげで、多少の疲れはあるものの、スッキリと目を覚ましました。

さっそく高速道路状況と下道の状況をチェックします。

結果・・・非常事態です。

鳥取道、依然トレーラーの立ち往生により封鎖中。
53号線、依然自動車の立ち往生により封鎖中。
米子道、全封鎖中。

昨日、無理して下道で峠を越そうとしていたらと思うとゾッとする話。
ただ、今、ここにいることもすでにゾッとする話。

鳥取県はもう完全に孤島化しています。
これでは、雪がおさまるまではどうしようもありません。

【ホテルを出る前の僕に残された選択肢は1つ・・・】

①夜の仕事をキャンセルして封鎖解除まで待機する

諦めて仕事先に電話を入れようとしたそのとき・・・ふと思いました。

「本当にそうか?」
「帰る道はこれひとつだけなのか?」
「自分の目的は高速に乗ることなのか、それとも家に帰ることなのか。」

そう思ってもう一度、高速道路地図をくまなくにらみ続けたそのとき、これまで気にもしなかった道路が目に入りました。
これまでずっと南へ南へと目が行っていましたが、岡山からは東に行くわけです。

であれば、鳥取から東に抜けることは出来ないか?

 

陸の孤島に遠くから手を差し伸べるようにたたずむその高速道路は「北近畿豊岡自動車道」。
北近畿豊岡自動車道は、乗ると舞鶴若狭道にぶつかり、中国道に合流します。

つまり、北近畿豊岡自動車道にさえ乗れれば、大阪にも必ずたどり着けるということです。

 

ここでもう一度情報を整理します。

鳥取道、依然トレーラーの立ち往生により封鎖中。
53号線、依然自動車の立ち往生により封鎖中。
米子道、全封鎖中。
北近畿豊岡自動車道はまだ封鎖されていない。
北近畿豊岡自動車道に続く国道9号線も封鎖されていない。
南へ下る道路はすべて封鎖されていて八方ふさがり状態。

帰阪のリミットは15時。
現在時間は9時。

【ホテルを出る前の僕に与えられている選択肢は2つ】

①夜の仕事をキャンセルして封鎖解除まで待機する
②今すぐ出発して北近畿豊岡自動車道に向かう

僕にとれる選択肢は・・・②しかありません。

雪で地面も凍り付いた鳥取市内を東にぬけていきます。
すると・・・もはや失いかけていた希望が見えてきました。

まず、雪がやみました。
次に、晴れ間が見えてきました。
さらに、その道路は常に水がまかれて積雪防止策がとられていました。

「これ・・・もしかして・・・。」

我ながらよく東への進路に気づいたものです。
これはもしかするともしかするかもしれない・・・。

だがしかし、これまで2度も期待を裏切られたこと、まだまだ雪が強く降っていることを思うと油断は出来ません。

おまけに、これまで走ったことのない道路です。
不安で仕方がありません。

 

脱出成功!

そんな不安を抱えながら走ること3時間。
雪の山道をトラックに挟まれながら無心で走り抜ける。

もう自分がどこを走っているか、どこに向かっているかすらわからなくなっていました。

 

そんななか・・・ついにその瞬間がやってきます!

目の前の道路標識に見えた「八鹿氷ノ山入口」と書かれた緑色の文字!(高速道路は緑色表記)

雪は強く降っているものの、道路を封鎖するバリケードも、入り口を通せんぼする警備員の姿も見当たりません。

ついに・・・脱出。

そう、豪雪により完全に封鎖された鳥取県を、僕は見事に脱出することに成功しました。
その後の雪のない高速道路が、地元大阪の温かい日差しがどれほどありがたかったことか。

我が家に戻って来れたのは14時00分。
鳥取市を出て実に5時間。
前の日から計算すると21時間が経過していました。

おかげさまで、無事に夜の仕事にも間に合うことが出来ました。
さすがに疲れましたけど・・・。

 

自分はどうしたいのか?大きな目標を明確にする

今回、大雪で閉鎖された鳥取県を、雪のあるうちから抜け出すことが出来た最も大きな理由。

それは「出来る限り早く大阪に帰る」という目標を明確にしていたからだと思います。

そんなことは当たり前ですね。
でも、わかっていても難しいことなんです。

今回の僕の脱出劇において、ベストプレーは2つありました。
ひとつは、もちろん「北近畿豊岡自動車道の発見」です。

一度も乗ったことのない、下手をしたら人生で一度も乗らないかもしれない道路に目を向けることが出来たのは奇跡というほかありません。

ですが、それ以上に、この選択を誤っていたらすべて台無しになっていたであろう選択がありました。

それは「鳥取道への迂回」です。
そもそも、鳥取市内にたどり着いていなければ、この脱出劇は実現していません。

これから夜になろうとするそのときから、100kmを超える鳥取横断を敢行した、あの最初の選択において「必ず今日中に脱出する!」という強い決意があったからこそ、雪深いなかでの脱出が実現できたのだと思います。

 

人は「脱出する!」という目標を持っていながらも、目の前の課題に向き合うととたんに目標を見失います。
目標が「脱出する」から「解決する」に変わってしまうんです。

大切なことは、最初から最後まで、常に最後のゴールを明確にしておくこと。

「脱出するために何をすべきか?」
「脱出するために何をしないか?」
「脱出するためにどういう情報が必要か?」
「脱出するために・・・」それこそが脱出の原則です。

脱出に限りません。

何かを成し遂げようとするとき、「それは何のためにすることなのか?」を明確にする。
それこそが成功の秘訣のひとつ、なのではないでしょうか。

 

以上、リアル脱出ゲームよりリアルな脱出劇に遭遇した人はあんまりおらんのちゃう?って思ってる篠田でした。

 


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篠田 厚志

理事長 / おやこヒッチハイカーファザーリング・ジャパン関西
三児の父親。安定の大阪府庁を退職し、NPOの世界へ。 父親の子育てはやれと言われてやるもんじゃなく、できる仕組みを作ることが大切。「父親の子育てをヤバくする」をミッションに活動するファザーリング・ジャパン関西の理事長を務める。[⇒詳細プロフィール]