親子向けマジック講座をやっている。主に小学生とその父親に向けて簡単なマジックとその演出をお伝えする。マジック講座は父親の受けがいい。なぜならマジックができると人に「すごい」と思ってもらえるからだ。男性は一般に他人から「すごい」と尊敬されたいという欲望がある。だからマジシャンは男性が多く、マジックを楽しむ観客は女性が多い。女性はマジックを見て「不思議、おもしろい」という感情を隣の女性観客と共有するのが好きだ。そんなマジック講座で参加した父親に釘を刺すことがある。それは手品を「自分をすごいと思ってもらいたい」という動機でやってはダメだということだ。

男性の内面の動機とは矛盾するけれど、マジックはあくまでも「相手を楽しませるためにする」ものだ。自分をすごいと思ってもらいたい動機は、マジシャン自身が自覚していようがいようまいが観客にはバレる。そして動機が自分を楽しませるためじゃなくてマジシャンの自己顕示欲だとバレた瞬間にしらける。バブルの時代、ミスターマリックの超魔術が流行った。マリックがテレビで使った超魔術の道具やタネは大金を出せば買えた。ある層の男性たちはこぞってそれを買い求めて、クラブやスナックで働く女性に披露したそうだ。自己顕示欲100パーセント。それでも働く女性はウケてあげなくてはいけない。そのせいで日本にマジックが嫌いな女性が増えた。

マジックはサービスだ。相手のためにするもの、それを忘れてはいけない。そういう私も高校生のときにモテたくてマジックを始めた。コミュニケーションが苦手なオタク少年だった僕は特技がほしくて、その特技で人にすごいと思ってもらいたかった。でも無駄だった。マジックでは全然モテなかった。「ちょっとマジックみてや」とお願いして一生懸命練習したテクニックを披露する。でも場はしらけるだけ。バブル時代の男性たちとやっていることは同じだけど、働く女性と違って同級生は容赦ない。「ふーん」で終わることがほとんどだった。

高校を出てから、マジックの実演販売のアルバイトをした。アルバイトなので道具が売れようが売れまいがは自分の時給に関係ない。だから、ただ目の前に来た子どもを楽しませるためだけにマジックをした。そのマジックグッズは飛ぶように売れた。そのとき理解した。マジックは相手のためにしなくてはならない。あれ、これどっかで聞いたぞ。文章を書くときもそうだ。自分のために書くのではなく読んでくれる相手のために書く。僕が見聞きしたあらゆる文章術の本やセミナーで言っていた。

マジックも文章も相手が楽しめるかどうか、それが全て。特に男性は心しよう。


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和田 憲明

副理事長 / マジックパパファザーリング・ジャパン関西
マジックパパ代表、主夫。娘の誕生を機に主夫となり保育士資格を取得。FJKでは初代理事長、現副理事長を務める。特技は手品、趣味はSF・特撮・アニメのオタク系パパ。 [⇒詳細プロフィール]