「まほうして」
この15年、たくさんの子どもがこの言葉をかけてくれた。
「マジックマン、まほうして」「かえでパパ、まほうして」「つばきパパ、まほうして」「マジックパパ、まほうして」「のりせんせい、まほうして」「えんちょうせんせい、まほうして」「わださん、まほうして」
最初、この言葉を長女が通っていた保育園の園児からかけられたときは凄く嬉しかった。
「マジックマン、まほうして」
土曜日に開催した保育園のバザーでマジックショーをやった直後のこと。そのとき僕は「マジックマン」と名乗ってショーをしたのだ。
残念ながらその当時、準備をしたマジックショーはできても、子どもの突然のお願いに応じるだけのマジックの引き出しはなかった。「ごめん、今日の分の魔法はさっきのでおわりやねん」「なんで?もうまほうのちからがなくなったん?」「そ、そうやね」「ほんならうちにおいで。ごはんたべさしたる。せやからまほうして」
それを断ったときの4歳の女の子の残念そうな顔が頭に焼き付いた。翌月曜日のお迎えの時、その4歳の女の子に声をかけた。「朝ごはん食べてまほうの力つけてきたで」他の園児も「あ、マジックマン!」と近づいてきた。朝の忙しい時間さっと1ネタ、スポンジのトマトがワープする魔法を見せた。そう、僕は日曜日にいつでもどこでも出来るマジックグッズを手に入れて練習し、それを携帯して保育園に行ったのだ。
女の子の残念そうな顔の記憶は、ビックリして喜んだ顔に上書きされた。マジック、手品、まほうの力を実感した出来事だった。
そんなことを繰り返すうちに、僕はマジックグッズがなくってもそこらの石やどんぐりやブロックで同じマジックをできるようになった。
新年の1月4日、勤めている保育園の通常保育開始の日。「おはよう」と保育室に入る。
先に登園していた園児が声をかけてくれる。
「わださん、まほうして」
僕を笑顔にする魔法の言葉を。

和田 憲明

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