9月公開の映画で一番推すのはまちがいなくこれ。
僕が最初に邦題の『ドリーム』というタイトルから想像したのは、単純なサクセスストーリーでした。
この映画、気持ちいいサクセスストーリーであることは間違いありません。
しかしその内実はかなり複雑な事情がたくさん含まれています。その中には現代日本の働き方問題につながるものも。
たぶん他では書かれてない、ファザーリング的・イクボス的・働き方革命的視点からの『ドリーム』論です。
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人種差別、女性差別が『普通』だった1960年代のアメリカで、初の有人宇宙飛行計画である『マーキュリー計画』の裏で活躍した3人の黒人女性の物語。
原題は”HIDDEN FIGURES”(隠された姿)
なぜ『隠された姿』なのかというと、これまでアメリカの宇宙計画で表に出てきていたのは宇宙飛行士を中心とする白人男性ばかり。
それを支えた人たち、特に黒人女性のことはこれまで全く知られていなかったから。
これは1984年公開、同じマーキュリー計画の映画『ライトスタッフ』と見比べればよくわかります。
白人専用の学校を卒業しないとなれない技術者。それを知ってあきらめているメアリー。
配属部署の近くに有色人種用のトイレがなく、一回トイレにいくたびに40分かかる中で働いているキャサリン。
白人の管理職並の仕事をこなしているのに、給料は一般職の白人よりも低いこと、昇進の見込みもないことに葛藤するドロシー。
主人公の他に僕が印象的だった登場人物は、2人の白人女性です。
男性社会で働きながら、白人の立場で黒人女性と関わるという微妙な立場。
つっぱって働いている彼女達の隠された葛藤も裏テーマとして心にしみます。
特にキルティン・ダンスト(綺麗!)演じるヴィヴィアンの言動、その変化に注目。
ソ連に先を越された有人宇宙計画。ガガーリンが人類で初めて宇宙に上がったその日、NASAの上司がスタッフに言います。
「今日から帰れない。今から妻に遅くなると電話をかけろ(電話をかけない奴は辞めろ)」
その部署唯一の黒人女性であるキャサリンも家に電話をかけます。
かけた相手は母親。彼女は3人の娘のシングルマザーで自身の母親と同居しています。
母親なのはキャサリンだけではありません。
3人の主人公全員が子育て中の母親なんです。
それぞれの夫や子どもとの関わりも描かれています。
女性のキャリア、ガラスの天井、パワハラマタハラ、ワークライフバランス、イクメン。
これに似た現代の日本も状況をありありと連想して考えさせられました。
それでもこの映画は爽快です。
なぜなら3人の主人公がこれらの環境に能力と仲間とユーモア、そして愛を持って立ち向かい突破するから。
とくに3つ目のユーモア。これが大事!
愚痴に走りがちな自分を振り返ることができました。
FJKのブログを読まれるような方は今夜にでも観に行ってください。
損はさせません。
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蛇足1
人種差別を受けたことのない立場として。
僕はついつい人種差別って黒人差別と思いがちでした。
でも差別対象が常に”COLORED”と表示されていることにドキッとしました。
字幕では『非白人』。勉強不足を恥じます。
蛇足2
映像センスも眼福。女性撮影監督、自然な照明、一部フィルムの触感。
「チョーク」「貧乏ゆすり」がリフレインされるカットに注目です。
蛇足3
おばちゃん達の迫力は時代も国も人種も問わない。

和田 憲明

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