この記事は天狼院メディアグランプリに掲載されたものを一部修正したものです。
映画『カメラを止めるな!』を観てから、やたらと身体が熱い。
巷の話題のとおりネタバレ厳禁な映画。
内容について触れるのは、予告編や公式HPに載っている範囲だけにする。
37分1カットのゾンビ映画から始まる映画。それを撮った人たちの映画。テクニックとトリックとユーモアが満載の映画だ。
だけど僕がこの映画について一番伝えたいことはこの3つではない。
僕が伝えたいこと、それは、この映画は愛に溢れているということだ。
この映画は「映画を作るということ」についての映画。
映画を作ることに情熱を注ぐスタッフ・キャスト、そして監督の動機を描いた映画だ。
その動機が解明されたときに観客は感動する。
人間への愛に溢れたゾンビ映画、それが『カメラを止めるな!』だ。
低予算で作られた映画の現場に僕は親近感を感じる。
僕も学生時代に自主映画を撮っていた。だからこの映画の成功にものすごく熱くなる。しかし同時に、その反対の感情も出てくる。
それは、自分が学生時代に「こんな映画を撮りたい!」と夢見て、実際に撮った時の記憶。
出来上がりを観るとまったく自分のイメージに届いていなかった。
届かなかった自分に心底がっかりした記憶だ。
眼高手低という言葉がある。
人が作った物を見て意見を言うことは誰にでも言える。しかし実際に手を動かして取り組んで観ると、それにはまったく届かないのだ。
僕たちが日々見ている映画やテレビの映像はプロが撮ったもの。常にプロの映像を見慣れている僕たちは実は目が肥えている。
その肥えた目を元に自分の頭の中でイメージする映像は、それはもう素晴らしく綺麗で格好良くてイケてるものだ。
しかし、自分が撮って観るとぜんぜんそれには届かない。
それに気づいた時に、それを乗り越えようとするか、挫折するかで映像の世界に進むかどうかが決まる。
映画監督を夢見て入った専門学校で僕は5本の映画を監督した。
予算もないゆえ、スタッフ・キャストは全部学生。撮影場所は全部ロケ。
近所の河川敷や公園、友人の部屋、そして学校の廊下。
スタッフ・キャストや撮影場所は仕方がない。しかしそれを撮影テクニックで格好良く見せる。
その格好いい完成映像のイメージは僕の頭にあった。
そのイメージどおり、現場にカメラを据えて、照明を立てて、キャストに演技をつけた。
最初の作品はサスペンス。ちょっと綺麗な先輩女性に死体役を頼んだ。
オープニングシーンは夜の河原。運良く、撮影当日は雨。
血糊で汚したシャツを着て、土手に横になってもらった。最高に格好いいオープニンク映像だ。
15分の作品を撮りきって、最低でも有名監督の低予算の初期作品のような映像を作れたと思った。
しかし、出来上がったのはカラオケビデオの出来の悪いものにも届かない、本当に見ていて辛いような映像だった。
そのあと4本撮ったが、出来の悪さは変わらなかった。
僕は挫折を選んだ。今は映画とは全く違う仕事をしている。
眼高手低は映画だけではない。文章もそうだ。
日々、本や記事を読む。そのほとんどはプロが書いたもの。それに対して素人でもあれこれ意見を言ったりダメ出しをすることはできる。
しかし、自分で実際に書こうとすると、書けない。
このライティング・ゼミの課題は2000文字。普段読んでいる本の分量からすると、ものすごく少ない。
たったの2000文字だ。でもこれが書けない。
500字の文章ならすぐに書ける。すぐに読める。でもその代わりに感動も少ない。
文章で感動してもらいたい、そのためには2000字が必要。
『カメラを止めるな!』は15分の短編として作ることもできた。
37分1カットじゃなくて5分1カットのゾンビ映画を作った人たちの話にしても、同じ構造の映画はできた。
でもそれでは観客を驚かすことはできても感動までは持っていけない。
37分の凄さとそれに続く1時間があるから、感動までいけるのだ。90分の積み重ねの後に、この映画を作った動機が解明される。
今、多くの人が感動して口コミで面白さが伝わり、そしていま僕が熱くなっているこの映画の感動を得るには2時間の映画が必要だったのだ。
僕もまずは2000字をしっかりと書く。
でもそれにはひとつだけ条件がある。
『カメラを止めるな!』から僕が学んだことだ。
ひとつだけの条件、それは文章から愛が溢れていること。
『カメラを止めるな!』の監督は映画を愛している。映画に関わるスタッフ・キャストを愛している。
僕もまずは自分が愛しているものについて書こう。
そうすれば僕の文章からも愛が溢れるかもしれない。
和田 憲明
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