私は長い間、大きな勘違いをしていました。
カサカサカサ……
「きゃーっ!パパ、早く来て!!」
リビングに響き渡る妻と長女の悲鳴。駆けつける私。
「Gが、Gがでた!」
まかしとき。と、雑誌を丸めてバシッと一撃。
「パパありがとう」
に意気揚々とする私。今日も家族を救ったのだ。
というヒーロー気取りの勘違いです。
Gという超有名怪獣映画のシリーズがあります。
G映画では出現し日本に上陸したGをいかに倒すのかが見せ場です。
防衛隊、超兵器、対戦相手の怪獣。
その戦いは格好いい!
最新作のシン・Gでは東京に上陸したGを凍結させた『巨大不明生物特設災害対策本部』のチームがヒーローになっていました。
Gがもたらした被害が大きければ大きいほど、Gを倒したときの快感も大きい。
シン・Gは東京が徹底的に破壊される前半の絶望感と、Gが凍結したあとの静寂のギャップが大きく、ものすごく気持ちのいい映画でした。だから一般に大ヒットした。
振り返ってみれば、幼少時から観て来た全てのヒーローがそんな戦いをしていました。
出現する悪の規模は犯罪者・怪人・怪獣など様々。
ヒーローはそれらが出現し、人々に被害をもたらした後に倒していました。
その被害が大きければ大きいほど、悪が倒されたあとの気持ちがいい。
もしかしたら私にはそれらからの刷り込みを強く受けたのかもしれません。
G映画はフィクションです。フィクションだから安心して被害と倒す快感のギャップを楽しむことができる。
映画と違って家庭でのG出現は現実です。
Gが出現することで、家族の平和は乱されている。
私自身はGがそれほど怖くない人間なので、あまり深刻にとらえていませんでした。
しかし、そんな私の認識を妻の一言が変えました。
「私ほんまに怖い。Gがまた出るかと思うと安心して寝られない」
そんなに!
正直、Gが出現したことがそこまでの心の被害を妻にもたらしていたとは気づいていませんでした。
フィクションならば大きな被害をもたらした悪を倒すギャップを楽しめばいい。
でもこれは現実。
現実に妻が被害を受けているならば、まず被害が起こらないようにすべきなのです。
こんな当たり前のことに気づいていなかったとは!
ちなみに我が家の家事担当は妻が炊事、洗濯は家族で交代。
私は家の掃除・保守担当です。
掃除機かけ、ホコリとり、ゴミ出しという掃除は基本的に毎回私がやっています。
網戸が破れたり、水道のパッキンが老化したり、季節ごとのエアコン掃除という保守も私の担当です。
当然ながらGを出現させない環境づくりも、掃除・保守担当の私の役割であり責任だったのです。
それを怠っておいてヒーロー気取りとは何事か!
そこから私のG対策は変わりました。
Gを出現させないことが第一目標になりました。
その予防法をググって徹底しました。主には以下の3つ。
- 市販のG駆除剤を家の隅々に設置すること
定期的に置き換えることですでに侵入や繁殖をしたGを駆除。
- 食べかすを放置しないこと
部屋の隅の食べかすはGの喜ぶ食料。Gの繁殖を防ぐことができる。
- 戸締りをしっかりとすること
Gは開いているドアや窓を通って屋外から侵入するそうです。
3つとも当たり前のことかもしれません。しかしG対策を意識することで生活のクオリティそのものがあがりました。
食べかす掃除の徹底は家を清潔に保ってくれますし、戸締りしっかりの習慣は家の防犯にも役立つ。
そしてもちろんGが出現しなくなったという事実そのものが、家族の平和の時間を増やしてくれました。
ひいては掃除・保守という自分自身の役割のクオリティも上がったのです。
いちG映画ファンとしては思います。
映画館ではぜひこれからも、破壊される街と響き渡る人々の悲鳴を轟かせてほしい。
映画はヒットさせないと次の映画を作れなくなってしまうから。
G映画が観られなくなってしまうのは悲しいから、Gを倒すのが快感の映画を作り続けてほしいです。
しかし、いちパパとしては思います。
現実ではGが出現してパパが倒し、パパが快感を得るというメリットは家族には意味がない。
それよりも、もう2度と我が家に悲鳴を轟かせないことが大事です。
たしかに、
「きゃーっ!」バシッ「パパありがとう」
から得られる快感はなくなりました。
その代わり、
「しめしめ、この夏も家族に一度も悲鳴をあげさせなかったぞ」
といったより内面的な、深い快感を得ることができるようになりました。
そう、まるで海底で人知れずGを葬るようなマニアックでリアルな怪獣映画を楽しむような。
ヒットはしないカルト映画をひっそりと楽しむような。
Gを出現させない快感は、カルト映画を楽しむ快感。

和田 憲明

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