有名な映画評論家O氏は言った。「ルーカスは恋愛がわかっていないのよ」僕は激怒した。O氏はジョージ・ルーカスをわかっていない。ルーカスが企んだスターウォーズの壮大な仕掛けをわかっていないのだ。

時は2002年、スターウォーズの新作『エピソード2・クローンの攻撃』を紹介するワイドショーでのこと。スターウォーズ2はファンの間でも評判の悪いエピソードだ。特に評判を落としたのがヒロインとヒーローのベタベタな恋愛描写。そのまんまな愛の言葉の応酬。お花畑でピクニック。挙げ句の果てには抱き合って草原を転げ回る。たしかにあまりにも幼い恋愛描写で観ていてい恥ずかしくなる。どんな安い恋愛ドラマでもどんなベタな恋愛映画でもどんなストレートな少女漫画でも、ここまでのベタな展開はなくて、もう少しひねった恋愛描写をする。ここだけを切り取ればたしかに駄作と感じても仕方がない。

でも忘れちゃいけない。スターウォーズはシリーズ映画だ。2つの3部作、計6本の映画で構成された大河ドラマなのだ。だからこのベタベタの恋愛描写もシリーズの中の位置づけとして捉えなくてはいけない。何度も引用して申し訳ないが、O氏はこうもおっしゃった。「中学生の妄想みたい。ルーカスはロクな恋愛をしたことがないんじゃないかしら」ルーカスはオタクだ。だからもしかしたらO氏の言うことも当たっているのかもしれない。しかし、2の恋愛描写が中学生の妄想レベルになった理由は別にある。それをひもとくには2の22年前に制作された『エピソード5・帝国の逆襲』を召喚する必要がある。

2と5はどちらも三部作の真ん中という位置づけ。どちらも3部作の中でいちばん波瀾万丈なドラマが展開する。その中での癒やしとして恋愛描写が中心に置かれている。でもその描写方法は正反対だ。2の恋愛描写はベタだ。愛しているなら「愛している」という。見つめ合って抱き合って草原を転げ回る。でも5の恋愛描写は高度だ。愛しているのに「嫌いよ」という。いや、ここはまだ初歩だ。そもそもヒロインは相手を愛しているのかいないのか自分でも迷っているし、ヒーローは人を愛してしまった自分に戸惑っている。それが台詞と演技と編集で巧みに描写される。2の恋愛は子どもの恋愛。5の恋愛は大人の恋愛だ。

オタクのルーカスもやればできるじゃないか!残念ながら違う。5を監督したのはルーカスの師匠、アービン・カーシュナー。ルーカスは自分が恋愛演出が苦手だと言うことを知っていた。だからそれが得意な師匠にわざわざ監督を頼んだのだ。ルーカスのもくろみは見事にハマり、5はスターウォーズシリーズの中もっとも心理描写が巧みでもっともファンの評価が高い映画になった。その巧みさの中心が恋愛描写だ。ひとつだけ名台詞を紹介する。「愛してるわ」「知ってたよ」この会話がどんなシーンで展開されるか、観れば号泣必至だ。

さて、2に戻る。2の監督はルーカスだ。ルーカスは自分が恋愛ベタなオタクであることを知っている。それでも自分で監督をした。なぜなら2に必要なのは中学生の妄想のような幼稚な恋愛だったから。2のヒーローとヒロインはこの次の3で悲劇的な結末を迎える。なぜならこの2人はこんな幼稚な恋愛、本音しかぶつけ合えない人間関係しか構築できない子どもだったから。最後まで本音をぶつけあってしまい折れ合うことができなかった2人を待っているのは悲劇だった。それに対して5のヒロインとヒーローは次の6で結ばれる。なぜならこっちの2人は大人なのだ。時に本音を隠して嘘を言う技術を持っている。自分の本心がわからないと葛藤する複雑さを持っている。それがあの名台詞のシーンに結実し、未来の幸せに繋がるのだ。

さらなる鳥肌情報を教えよう。2のヒロインと5のヒロインは母娘だ。スターウォーズシリーズはとかく父と息子の対立がクローズアップされがちだ。しかし裏には母と娘の関係もしっかりと描写されている。父と息子は直接肉体で戦い、息子が父を倒す。しかし、母と娘は直接は戦わない。そのかわり時代をまたいで娘が母を心理的に越えるのだ。世代を超えた母と娘の葛藤にしびれるのもスターウォーズの楽しみ方ひとつ。他人に監督の座を譲ってまで、22年の間をまたいでまで、母による子どもの恋愛と娘による大人の恋愛を描いたジョージ・ルーカス。とんでもないレベルの伏線回収だ。

レベルが高すぎてO氏には理解できなかったのね。と、今なら許せる……わけもなく、今からでもO氏の胸ぐらつかんで教えに行きたい自分はジェダイには程遠い。


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和田 憲明

副理事長 / マジックパパファザーリング・ジャパン関西
マジックパパ代表、主夫。娘の誕生を機に主夫となり保育士資格を取得。FJKでは初代理事長、現副理事長を務める。特技は手品、趣味はSF・特撮・アニメのオタク系パパ。 [⇒詳細プロフィール]