シンプルな柔道着のような服の上に丈の長いローブを羽織りフードを被る。スター・ウォーズに出てくる代表的なファッションの一つ。共和国を守護するジェダイ騎士団の衣装だ。しかしこれは元々ジェダイのためにデザインされたものではなかった。

最初のスター・ウォーズのファッションはシンプルだった。時は戦乱のさなか、ファッションなどにこっている余裕がなかったから。しかい、そのシンプルさの中には機能美があった。砂漠の惑星に住む主人公のシンプルな柔道着のような白い服は涼しくて風通しがよく、なおかつ紫外線から身を守る。同じ星の原住民エイリアンたちも、強い日光から身を守るように顔にまで布を巻き付けたり、フードをかぶったりしていた。その機能美が正式のファッションになることもある。砂漠の惑星に住んでいた人間、主人公の叔父は主人公に似た白い服の上からフード付きの長いローブを羽織っていた。これが砂漠の惑星の代表的なファッションだ。おなじく砂漠に隠れ住み主人公を20年間見守っていた老ジェダイも砂漠の民と同じ服装をした。後に制作された前史で大勢登場する騎士、ジェダイたちの格好。実はあのジェダイたちの衣装の元ネタは砂漠の惑星で生活している住民の生活服だった。

2作目で老ジェダイの師匠である緑色の小さなエイリアンが登場した。エイリアンは老騎士の師匠で同じくジェダイ。映画として老ジェダイとのつながりをわかりやすくするために、エイリアンは沼の惑星に住んでいるにもかかわらず、同じ長いフード付きのコートを着せた。それが逆採用されて、シンプルな柔道着のような服の上から全身をすっぽりと覆う長いローブを羽織るのが全てのジェダイの正装が産まれた。ジェダイの衣装は変だ。そんな長いローブを沼地で着ていたらすぐにどろどろべとべとになりそうだし、たとえ沼地じゃなくても足をとられて動きにくそうだ。そのうえフードをかぶると視界も悪くなる。しかし、元々は砂漠の日差しから身を守るためのローブだった考えると合点する。しかし、長いコートを翻して戦うジェダイは格好いい。だからこれでいいじゃないか。ファッションなんてそういうものだ。セーラー服だって海軍の軍服だったし、ジーンズはもと鉱夫の作業着だったのだ。実用していたデザインがファッションになることもある。監督のジョージ・ルーカスもジェダイの戦いのシーンをCGで製作したとき、「ローブをもっと翻らせて!物理よりもロマンを大切にしよう」と言った。ファッションに快適さを求めないのはスター・ウォーズの世界も一緒だ。

さて戦乱のさなかシンプルだった登場人物の衣装は戦争前の平和な時代を描いた1・2・3では真逆の絢爛豪華になる。平和な時代の人々は豪華な衣装を楽しんでいたのだ。それは映画の設定であると同時に制作側の事情があった。単純に4・5・6のときは金がなかった。それだけのことだ。だからシンプルになるし、ありもので工夫もする。有名な悪役、ダースベイダーの衣装のベースは普通のバイク用のライダースーツと、スタッフが衣装倉庫から引っ張り出してきた古い映画のマントの使い回しだ。ありものを組み合わせて工夫するなんて、安いファストファッションの組み合わせで勝負する現代の若者のようだ。

戦乱の時代の平和な時代、その違いがいちばんわかるのが姫の衣装だ。戦乱の中の姫の衣装は白一色のワンピース。ほぼ映画一本の間その衣装のみ。その上にほぼすっぴんだ。平和な時代の姫の衣装は絢爛豪華。一体何種類の素材、色、技法を使っているのかわからない。メイクも白塗りをした上にいろいろと描き混んでいる。花魁の姿とでもいえばわかりやすいかもしれない。

しかし、絢爛豪華な姫の衣装とシンプルな白一色の姫の衣装、どちらがスター・ウォーズのアイコンとしてファンの記憶に残っているかというと、圧倒的に白一色、戦乱の時代の姫の衣装の方だ。平和な時代の姫は絢爛豪華な上にお色直しが多すぎて、これという決定打の衣装がないという結果になってしまった。

スター・ウォーズの登場人物はだいたい自分の属している文化圏の衣装に沿った服を着ている。砂漠の民は砂漠の民、イリアン種族は同じ種族の中ではみな似たような服を着ている。しかしその中でグループの衣装から逸脱した人物がいる。皆が白い柔道着を着ているのにひとりだけ黒い服を着た人物。彼はジェダイの中の異端児だった。組織の論理に従いながらも時にそれを逸脱し、最後は組織を飛び出した。ファッションは行動に影響を与える。彼の息子も最初は白い服を着て登場したが、次はグレー、次は黒というふうに、次第に悪に惹かれる内面に呼応して服装も変化していった。しかし、最後に銀河を救ったのは、この黒い服の親子だった。組織の服を着て組織の和を尊ぶのもいいが、時にそれを逸脱することで組織の外の世界、もっと広い世界に影響を与えられるのかもしれない。ファッションは行動を作る。


The following two tabs change content below.

和田 憲明

副理事長 / マジックパパファザーリング・ジャパン関西
マジックパパ代表、主夫。娘の誕生を機に主夫となり保育士資格を取得。FJKでは初代理事長、現副理事長を務める。特技は手品、趣味はSF・特撮・アニメのオタク系パパ。 [⇒詳細プロフィール]