人生の最晩年、老衰間際の2年間で大きく成長した人物がいる。その名はヨーダ。緑色の小さなおじいちゃんだ。彼は880歳から900歳の20年で大きく成長した。人間で言うと平均寿命を遙かに超えた超高齢者になってからの2年でだ。ヨーダは共和国を守護する誉れ高き騎士団の長だった。手を触れずに物を動かしたり、人を操ったり、未来を予言できる超自然的な力をあやつり、銀河の平和を守っていた……はずだった。しかしヨーダは失敗する。悪の陰謀によってズルズルと戦争に引き込まれ、その結果大敗した。騎士団が率いる共和国軍が敗北したことにより、銀河共和国も滅亡した。共和国に取って代わったのは独裁を敷く帝国。暗黒時代が始まった。どうしてヨーダは負けたのか。超自然的な力で未来をも予言できるはずの力を持っているヨーダが。その理由はひとつだけ。ヨーダ自身が傲慢になっていたからだ。それも自分では気づかないうちに。

あるとき、部下のひとりが少年を連れてきた。少年は大きな力を秘めているから、鍛えれば共和国の役にたつ立派な騎士になるというのだ。ヨーダは少年をテストした。その結果、彼の心の中に恐れがあることを発見する。母を失うかもしれないという恐れだ。これはいかん。恐れは怒りにつながる。誇り高き騎士はいつも冷静でいなければならない。だからその少年がいくら大きな力を秘めていても騎士団には入れない。ヨーダはそう即断して部下と少年にその通りに伝えた。少年は母子家庭で母親は奴隷として辺境に取り残されている。たった2人家族のうち少年だけが部下の騎士に見いだされて銀河の首都に連れてこられたのだ。少年の中に母を失うかもしれない恐れがあるのは当然。しかしヨーダはべき論に支配された石頭で、将来共和国の役に立つかもしれない人材を採用しなかった。少年に直接「恐れてはいかん」という無慈悲な言葉を浴びせて。

ある女性議員が暗殺されそうになった。彼女の政治手法への反対勢力からのテロにあったのだ。運良く彼女は助かったが、これからも危ない。彼女を囲んで共和国の要人と騎士たちが会議をした。その会議でヨーダは彼女に重々しい口調で言った。「そなたに危機が迫っておる」皆んなわかってるわ!と突っ込むべきところだ。それが暗殺されかかったばかりの人に言う言葉か?しかし、その場では誰もつっこまなかった。ヨーダの地位と高齢と雰囲気におされたのかもしれない。もしかしたら、つっこんでも面倒くさくなると見捨てられていたのかもしれない。結局ヨーダは誰からもつっこまれなかったので、自分の変さに気づくこともなくいいこと言ったと満足してしまった。

それから間も無く戦争が起こる。ヨーダは戦争を指揮するが、指揮する兵士は誰かがタダでくれたクローン(複製人間)の兵士たち。なぜだかわからないけど共和国のためにある星で作られていて、その代金の支払いも済んでいた。明らかに怪しい。しかし敵に押しまくられていた騎士達には余裕がなかった。騎士たちは強かったが絶対人数が少なく危機に陥っていた。そこに差し出されたタダのクローン軍。ヨーダは飛びついた。意気揚々とクローン軍を率いて味方を助けにかけつけたヨーダ。案の定、クローン軍は敵の罠だった。遺伝子に組み込まれていたプログラムにより最後の瞬間一斉に騎士たちを裏切った。仲間の騎士は皆殺しにされ、共和国も滅亡する。

最大の敗因は、騎士団は共和国を守るといういいことをしてるんだから、誰かが助けてくれて当然という勘違いだろう。ヨーダは優しい人に匿われて生き残り、ひとりで身を隠す。同じく生き残った騎士の忘れ形見の赤ちゃんが銀河に光を取り戻してくれることを期待して。自分は何もしない。弟子たちに赤ちゃんの世話は任せてひとりで沼の一軒家に隠れるのだ。なんという無責任。

20年後、赤ちゃんが少年に成長してヨーダを探しに沼に来た。少年は言う「偉大な戦士を探してるんだ」ヨーダは答えた「戦いで人は偉大にはならんよ」ヨーダは反省していた。自分が調子こいて戦ってしまったことを悔いていたのだ。さらに20年前に会った少年には「恐れてはいかん」「恐れは怒りにつながる」とダメだししていたのに、今回は「おまえは恐れる」「怒りに気をつけろ」と違うことを言うのだ。ヨーダは人間の心の中に恐れや怒りがあるということ、それをありのままに認めることができるようになった。べき論からの脱却。すごい成長だ。

もうひとつ、わかりやすいヨーダの成長がある。かつて戦争が始まりそうな時に、共和国の議長がヨーダに予言を求めた。ヨーダは「暗黒面が邪魔をして未来がよく見えない」と答えた。自分が予言できないのは敵のせいというわけだ。でも20年後、青年がヨーダに未来に何が起こるかを聞くと、ヨーダはこう答える。「未来は常に揺れ動いて定まっていない」つまり、自分は予言ができないと正直に言ったのだ。反省して正直になったヨーダ。ほんと、晩年にすごい成長だ。

その一年後にヨーダは大往生をする。偉そうな態度と言葉遣いだけは死ぬ間際までかわらなかった。人は成長するけど変わらない部分もある。それでもヨーダ晩年の成長は僕たちの晩年に希望を与えてくれる。


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和田 憲明

副理事長 / マジックパパファザーリング・ジャパン関西
マジックパパ代表、主夫。娘の誕生を機に主夫となり保育士資格を取得。FJKでは初代理事長、現副理事長を務める。特技は手品、趣味はSF・特撮・アニメのオタク系パパ。 [⇒詳細プロフィール]