スター・ウォーズの世界には、善の存在、正義の味方として描かれている集団がある。それがジェダイ騎士団だ。彼らは銀河系で民主主義を体現する銀河共和国のために働く。そのなかで上司にあたるのがジェダイマスターと呼ばれる師匠のジェダイたちだ。彼らは共和国の安寧を守るために東奔西走もするし、後進の育成もする。弟子は師匠について行動を共にするうちにジェダイの奥義や目的を学び、立派な騎士になる。しかし、ジェダイ騎士団、そしてその中で上司にあたるジェダイマスターたちが本当に善なる集団なのか、僕は首をかしげる。それは共和国が崩壊していく様子を描いたエピソード1・2・3を観て感じた疑惑だ。

あるマスターがいた。彼は銀河共和国の今後にとって大切な姫を船上から救出し、共和国の首都惑星に向かう。その帰路、ある田舎の惑星に立ち寄る。敵の攻撃で壊れた宇宙船を直すための材料を手に入れるためだ。宇宙船を直さないと大切な姫を共和国の偉いさんのところに届けられない。その惑星はギャング達に支配されいまだに奴隷制度が残っている辺境だ。マスターは修理の材料を探して立ち寄った古道具屋で奴隷の少年に出会う。奴隷の少年はマスターの腰からさがっているジェダイの武器、ライトセーバーを目にして彼がジェダイであることを知る。少年は期待する。ジェダイが奴隷解放に来てくれたと。

しかし、マスターの目的はそこにはない。目をキラキラさせえて自分に話しかける少年を尻目に、宇宙船の修理に必要な材料を手に入れるための交渉に夢中だ。交渉相手は少年の所有者のギャングである。結果、あれこれあってマスターは少年を連れてその惑星を出ることになる。その理由は奴隷解放ではなく、少年がたぐいまれなる力を秘めていて、将来有望なジェダイになるかもしれないから自分の弟子にしようと思ったのだ。あくまでもジェダイ側、共和国側の都合。ともあれ少年は奴隷から解放された。

めでたしめでたし、でもない。少年は奴隷身分からの解放と引き換えに母親から引き離されたのだ。少年は母親と一緒に同じギャングの主人に所有されていた。ギャングの主人の元、母一人子一人でがんばってきたその生活をたやすく引き裂かれたのだ。マスターとギャングはあれこれ取引をしたけれど、結局母親は奴隷のままで惑星に置き去りにされた。ジェダイマスターの力を持ってすれば田舎のギャングから母子2人くらいの奴隷を解放することなどたやすかっただろうに。ジェダイマスターは大いなる目的のために働くが、個人の権利や幸福はないがしろにする冷血な人間なのではあるまいか。その疑念が頭をもたげた。

それから数年後、別のジェダイマスターの話。共和国の議長が敵の戦艦に拉致された。それを救出するために共和国の戦闘機部隊が敵の戦艦に迫る。敵も戦闘機をくりだして乱戦になる。そのさなか、味方の兵士から悲鳴のような無線が入る。敵に後ろに回り込まれて今にも墜とされそうだという。マスターと行動をともにしていた弟子は言う。「彼を助けます」マスターの返事はこうだ。「本当の目的を忘れるな」本当の目的とは銀河共和国にとって大切な議長を救出すること。だから味方の兵士などほうっておけ、ということだ。結局、助けは間に合わずに兵士はあっけなく命を落とす。それでもマスターは顔色一つ変えないし、多大な犠牲を払った議長の救出作戦が成功した後には、ふざけたジョークまで言うのだ。

また別のマスター。マスターたちの中でも最高位で、ジェダイ皆から尊敬されている存在。その名はヨーダ。ある時、若い弟子がヨーダに悩みを打ち明ける。弟子は以前に母親を失う予知夢を見てしまい、なんとその予知夢が現実になり母親を亡くしたことがある。そして今、最愛の妻を失う予知夢を見てしまい、それが現実になることを恐れている。「大切な人を失うかもしれないことがとってもつらい」しぼりだすように訴える若い弟子。ヨーダの返事はこうだ。「それも運命。霊魂に姿を変える大切な人を喜んで見送ろう」ヨーダ、テメエの血は何色だ!(緑です)

人の心がわからない3人のマスターに師事していた人物。希望を裏切られた奴隷の少年、戦場で名もない兵士を助けようとする優しい戦士、母を失って悲しむ息子であり、妻を失う予感に怯える夫、これらは全部ひとりの人物だ。彼は優秀なジェダイの弟子として期待されるが、後に悪人になる。その名はダース・ベイダー。ベイダーはかつて人一倍感情豊かなで希望に満ちた少年だった。しかし彼は少年期から青年期に師事した3人のマスターにその感情を全く評価されず、それどころか感情は目的の邪魔になると叱られ続けたのだ。映画史上最も有名な悪役、ダース・ベイダーが誕生したのはほかでもない。彼の冷血なマスターたちのせいだ。

若い部下はときに感情的になる。もしかしたら本来の目的からそれたことをするかもしれない。余計な希望や正義感を持つかもしれない。しかし時にはその感情を正面から受け止めてやること。それも上司に必要な資質だ。ジェダイの失敗に学ぼう。


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和田 憲明

副理事長 / マジックパパファザーリング・ジャパン関西
マジックパパ代表、主夫。娘の誕生を機に主夫となり保育士資格を取得。FJKでは初代理事長、現副理事長を務める。特技は手品、趣味はSF・特撮・アニメのオタク系パパ。 [⇒詳細プロフィール]