「君とスターウォーズが観たいんだ!」
スターウォーズの新作が公開された2002年のこと、当時は洋画の日米同時公開が珍しく日本での公開はアメリカ公開から2ヶ月遅れだった。
よかったのか悪かったのか、ちょうどその間に新婚旅行でアメリカに行くことになっていた。日本公開前のスターウォーズをアメリカで鑑賞するチャンス!
僕はSFに全く興味のない妻に、恐る恐るサンフランシスコでのスターウォーズ鑑賞を提案した。
僕は自他共に認めるスターウォーズ信者だ。ファン・マニア・オタクじゃなくって信者。スターウォーズと共に生きている。
高校時代にスターウォーズの新作シナリオを書いたくらい。
SFに全く興味のない妻を新婚旅行でスターウォーズに誘うくらい。
我が娘に買った最初のレゴがスターウォーズで娘にそっぽを向かれるくらい。
Tシャツ・靴下・スマホカバーはもちろん、職場に持って行く鞄も水筒もスターウォーズ。そんな僕を哀れに思った同僚がたまにスターウォーズのポスターやクリアファイルをくれたりする。それらは同僚が無料で手に入れたもの。
スターウォーズは世界的にメジャーなので、有料の商品だけじゃなくて無料のコラボグッズも世に溢れている。
そんなメジャーなスターウォーズだけど、信者からすれば全然足りない。
もっと世界にスターウォーズを布教したい。全世界70億人全ての人がスターウォーズを観ればいい。スターウォーズが世界を征服すればいいと本気で思っている。
ただ、スターウォーズに興味を持っている人は多い。興味は持ってるけど観たことがないという人もかなりの割合でいる。
中には奇特な人がいて、僕に聞いてくれる。
「スターウォーズってどれから観ればいい?」
僕は即答する。
「4から観てください」
スターウォーズは4から作られた。なぜなら当時用意されていた全9作のストーリーの中で、4の部分が一番勢いがあって面白かったから。
スターウォーズ4は映画の冒頭から疾走しながら始まる。文字通り、2隻の宇宙船が画面を疾走する。おもいっきり途中からはじまるのだ。
だって4だから。
はっきりいって観客はわけがわからない。
なぜ宇宙船が疾走しているのか。なぜ姫様は逃げているのか、なぜ黒い仮面が追いかけているのか。
なぜ2体のロボットは常に喧嘩しながら一緒にいるのか。なぜ主人公には両親がいないのか。
映画は一切説明しない。
でも、その最初の勢いに乗れば快感だ。4は全編快感原則できている典型的なハッピーエンド映画。
4を観れば絶対スターウォーズを気にいる。そうしたら5に進もう。
5で主人公には最大の試練が訪れる。当時のファンは劇場で叫んだ。
「思ってたのと違う!」
多くのファンが想像していたのは前作の延長、普通の続編。スケールを増したハッピーエンドだった。
ところが5はそれとは真逆の悲劇、アンハッピーエンド映画だ。
悲劇に不安にならなくても大丈夫。6に進もう。主人公は成長して試練を乗り越え、大ハッピーエンドになる。
6の大ハッピーエンドを観た後でようやく5の試練、アンハッピーエンドが必要だったとわかる。
次は123だ。3作で壮大な悲劇に向かって行く大アンハッピーエンドのシリーズ。123から先見たら耐えられない映画だ。
123が観られるのは、6に大ハッピーエンドが待っていることを知っているから。
なんと、3のラストシーンを見てようやく、最初の4を見たときの「なぜ」がすべて解けるのだ。
そして3の悲劇が終わったら、456のハッピーエンドをもう一度観ずにはいられなくなる。
アンハッピーとハッピーが繰り返され、ぐるぐる回る壮大な仕掛け。
なんと恐ろしい映画でしょう。
スターウォーズは結婚と似ている。
まずは勢いだ。最初はお互いに相手のいちばんいい面を見る、見せる。最初の幸せの頂点が新婚時代、スターウォーズ4。
しかし、しばらく一緒に住んでいると、試練がおとずれる。
「思ってたのと違う!」
幸せになるために結婚したのに、なんだか最近幸せじゃない。
でもあきらめない。ここを踏ん張って乗り越えれば、再び幸せな時期がやってくる。
いい時期があってよくない時期がある。でもその間をぐるぐる回すのが人生だ。
「君とスターウォーズが観たいんだ!」
新婚の妻はサンフランシスコでのスターウォーズ鑑賞に「いいよ」と付き合ってくれた。
それは妻と僕の関係がお互いにいい面を見る、見せる時代だったから。
その後の16年間で、妻とスターウォーズを一緒に見たことはない。思ってたのと違った。
たぶんお互いに。
いい面ばかりを見せるわけにもいかなくなり、夫婦関係の試練も何度も訪れた。
でも僕はスターウォーズから学んだ。試練を乗り越えればハッピーエンドがくることを知っている。
毎年、ハロウィンで帝国軍兵士のコスプレで我が子と地域の子どもたちを警備している。
趣味と実益とスターウォーズの布教ができる一石三鳥のイベントは最高に楽しい。
スターウォーズに人生を学んだおかげだ。
和田 憲明
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