誰にも期待されていなかったスターウォーズの1作目。大ヒットするなんてことを監督のジョージ・ルーカスを含めて予想している人はいなかった。映画関係者が集まる試写での評判も最悪。でもただひとりだけスターウォーズの試写を観た直後に「これはヒットするよ」とルーカスに声をかけた男がいた。その男の名前はスティーブン・スピルバーグ。学生時代のルーカスの短編フィルムを観て「自分よりも天才がいる!」と驚愕したスピルバーグ。天才は天才を知るというのはこのことだろう。
面白いのはこの2人の性格が全く対照的だということ。スピルバーグは陽気で外交的、そして多作だ。自分の作品が大ヒットして、巨匠になってもどんどん他の作家と協力しながらいろいろな作品をつくる。スピルバーグ監督ではなくスピルバーグが制作し、若手が監督したヒット映画も数多い。世話焼きの親分肌なのだ。それに対してルーカスは陰気で内向的だ。スターウォーズが大ヒットしてからルーカスは自分のスタジオ、ルーカスフィルムを作った。ハリウッドの監督協会とも距離をおいて自分の王国に閉じこもった。そして王国でひたすらスターウォーズを作り続けた。
そんな対照的な親友2人の素敵なエピソードがある。スターウォーズの1作目が公開された日、ルーカスはハワイにいた。スターウォーズに全く客が入らないことを予測して、その現実から逃げていたのだ。しかし、予想を裏切ってスターウォーズは大ヒット。口コミで公開館数がどんどん増えてその報はルーカスを驚喜させた。全く偶然にその同じハワイにスピルバーグがバカンスで来ていた。ビーチでスピルバーグと出くわしたルーカス。ハイテンションで次に作りたい映画のことをスピルバーグに話した。これも偶然にその映画はスピルバーグも作りたい映画だった。古き良き冒険活劇を現代に呼び戻す。ハワイのビーチで親友2人が考えた企画は映画『レイダース』に結実する。のちにインディー・ジョーンズシリーズに発展する傑作だ。2人の才能がミックスアップした最高の例。
その一方で残念なエピソードもある。スターウォーズの3作目『エピソード6・ジェダイの帰還』は当初スピルバーグが監督をする予定だった。スピルバーグがルーカスに撮らせてくれと頼んだとも、ルーカスがスピルバーグに監督を熱望したとも両方の噂がある。どちらにしてもスピルバーグはやる気満々だったのだ。しかしクランクイン直前にルーカスはハリウッドの監督協会と別件でけんかをしてしまい、監督協会から脱退する。それによって監督協会に所属していたスピルバーグはスターウォーズの監督が出来なくなってしまったのだ。ルーカス制作、スピルバーグ監督のスターウォーズを観たかった! 観られなくなったのは全世界のスターウォーズオタク最大のがっかりだ。原因はルーカスの人とうまくやれない陰気で内向的な性格にある。
それでも、2人の友情は損なわれなかった。スターウォーズの監督ができなくなったスピルバーグは『E.T.』を撮り、E.T.の中にスターウォーズのキャラクター・ヨーダを登場させる。ルーカスはそのお返しに『スターウォーズ・エピソード1』にE.T.を登場させた。
そのエピソード1は、全世界の期待を集めて制作され「映画史上最も期待された続編」とも称されるれるスターウォーズ16年ぶりの新作だった。しかし、その評価はさんざん。全く期待されなかったことに反して大ヒットしたエピソード4とは正反対に、ものすごく期待されたエピソード1はファンからも評論家からも酷評された。そのテイストが前の3部作とあまりに違ったから、皆拒否反応を起こしたのだ。
しかし酷評の嵐の前、エピソード1を試写で観たスピルバーグは「なんてこった」と驚愕していた。一見、みんながだきすきな前の3作とは全く変わってしまったかのように見えるエピソード1、でもその裏側にあるルーカスの意図に気づいたのもまたスピルバーグだったのだ。酷評され続けたエピソード1、しかしその意図は新しい3部作が完結し、全6部作の中で位置づけられた今から振り返るとよくわかる。それを試写の段階で見抜いたスピルバーグこそ親友というものだ。
王国に閉じこもりがちなルーカスと外の世界の架け橋になってくれたスピルバーグ。他人には理解できない行動を理解できてしまう親友というものはいる。その親友は自分とは正反対の性格を持っていて、自分の世界を広げてくれる。

和田 憲明

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