銀河共和国を守る騎士、ジェダイは一般に善なる存在で正義の味方として認識されている。もしかしたらジェダイ個人個人は元々は善人なのかもしれない。しかしジェダイの集団であるジェダイ騎士団に所属すると、果たして善で正義の味方なのか、首をかしげたくなる。特にエピソード1・2・3の旧共和国が崩壊していくシリーズ。その中でいったいジェダイがどんな「いいこと」をしたのか。
たしかに、ジェダイマスターたちは共和国を守るために東奔西走する。でもジェダイは共和国は守るけど個人は守らない。その顕著な例がエピソード1のジェダイマスター、クワイ=ガン・ジンと奴隷少年アナキン・スカイウォーカーの関係だ。共和国にとって大切な存在である惑星ナブーの姫を救出して、銀河の首都惑星に向かう途中、クワイ=ガンはアナキンが奴隷としてこき使われている惑星、タトゥーインに寄る。敵の攻撃で壊れてしまった宇宙船を修理する材料を手に入れるためだ。偶然、クワイ=ガン・ジンと出会ったアナキン少年はクワイ=ガンの腰に下がるライトセーバーを見てしまい、クワイ=ガンの正体がジェダイであることに気づく。そして正義のジェダイが自分のような立場の奴隷を解放しに来てくれたのではと期待する。
しかし、クワイ=ガンの目的はそこにはない。共和国にとって大切な姫を首都惑星に送り届けること、それだけしか眼中にないのだ。いろいろあって結局クワイ=ガンはアナキンを連れてタトゥーインを出ることになる。でもそれはただ単にアナキンが常人以上のフォースを持っていて、将来有望なジェダイになる可能性を秘めていたからだ。しかも、母ひとり子ひとりで暮らしていたアナキン母子を引き裂いて。アナキン母子を所有していたギャングの言い分を聞いて、子どものアナキンだけしか解放させず母親は惑星に置き去り。母親はジェダイになる可能性がないから共和国にとって不要な存在と考える。画面上は慈愛にみちた存在に見えるクワイ=ガンだか、その正体は冷血な男だ。その冷血はクワイ=ガンの弟子、オビ=ワン・ケノービにも引き継がれている。
オビ=ワンもクワイ=ガンと同じく、大いなる目的のためには個人を見捨てる男。それが顕著に表れているのはエピソード3の冒頭だ。宇宙船によるドッグファイトのさなか、味方のパイロットから悲鳴のような無線が入る。敵に後ろに回り込まれて今にも墜とされそうだという。一緒に飛んでいたアナキンはオビ=ワンに言う。「彼を助けます!」オビ=ワンの返事はこうだ。「本当の目的を忘れるな」。彼の本当の目的とは、共和国にとって大切な元老院議長を救出すること。そのためには味方の兵士は見殺しにしておけ、ということだ。結局、救出は間に合わず、兵士はあっけなく命を落とす。オビ=ワンはそれに全く反応せずにただひたすらに大切な元老院議長の救出に邁進する。
さらにクワイ=ガンとオビ=ワン、両方の師匠であるヨーダも冷血だ。母親が死ぬ予知夢が現実になり、母を亡くしたアナキン。そのアナキンが今度は妻を失う予知夢に苦しんでいる。命を落とした母親と妻の姿が重なり苦悩するアナキン。悩んだアナキンはヨーダに相談する。「大切な人を失う予知夢を見てしまって苦しい」ヨーダの回答はこうだ。「それも運命。大切な人がフォースと一体になったことを喜んで見送るのじゃ」。ヨーダ、テメエの血は何色だ!(緑です)
こういったエピソードの積み重ねがあるのに、どうしてジェダイが善でシスが悪とみんな思い込んでいるのか。僕は集団で個人の権利をないがしろにするジェダイよりも、師匠と弟子のたった2人で1000年間頑張り続けているシスの方にシンパシーを感じてしまう。そして、上司が全員冷血だったアナキンに心から同情するのだ。奴隷解放に期待する希望に満ちた少年、乱戦の中で味方の兵士を助けようとする優しい青年、母親の死を悲しむ息子、妻の死の予感に苦悩する夫。アナキンには人間の感情が全て詰まっている。スターウォーズ1・2・3の中で一番「人間」だった登場人物は間違いなくアナキン・スカイウォーカーだ。アナキンがダークサイドに落ちて映画史上最も有名な悪役ダース・ベイダーになったのは、どう考えたって人の心がわからない上司、ジェダイマスターたちのせいである。
アナキンは人一倍感情豊かな人間なのに、それを上司には一切評価してもらえなかった。それどころか感情が任務の妨げになると叱られ続けたのだ。上司はいかに大いなる目的があっても、部下の気持ちと向かい合って共感と対話をすることが必要。ジェダイの失敗から学ぼう。
和田 憲明
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